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どうせフィクションでしょ?いいえ、これはリアリティ小説です
@集英社文庫
念のため先に申し上げますが、この作品はフィクションです。ですが、ノンフィクションだと思ってしまうほど、リアリティのある作品です。なぜなら、みなさんの知っている有名メーカーの名前が、ボロボロと出てくるからです。現在のイトーヨーカドーをはじめ、オンワードやラルフローレン、ユニクロなど、小説に実際にある有名メーカーが出てくると、ちょっとワクワクしませんか?
著者は黒木亮さん
photo:日本経済新聞
黒木亮さんは、とてもインテリなロンドン在住のおじさまです。
写真では、作家っぽくない風貌に見えますね。経済ニュースに出てきそうな雰囲気ですが、それもそのはず、彼はもともと金融マンでした。その後作家に転身しています。
もともと勉強になるように書かれている
彼は「事実に沿った小説」が好きだそうで、このアパレル興亡という小説も(一応フィクションと位置付けているようですが)事実をもとに書き下ろされています。
彼はこの小説のインタビューで「自分で作ったフィクションは基本的に入れません。」と語っているほどのお方ですので、小説だけれど内容はアパレル史、業界の教材として大変良書だと筆者は感じます。
また、2020年4月1日の産経新聞では、「アパレル自体がどういう産業で、その周辺がどうなっているかということが読者にとって知識になるようにという思いと、(投資会社の)村上ファンドも絡んだ覇権をめぐる人間の欲望のドラマを伝えたいと思いました」とも言っています。
独学はどこからどうやって学んでも大歓迎ですから、この小説を読まない手はありませんね。
徹底した取材
主人公の名前や登場人物の名前こそ違えど、モデルは存在しています。実際にどんなことがあったのか、彼はこの作品を書くにあたり、5年間で約60人に取材しています。ゆえに、生々しさが半端なく、そこに面白さがあります。
これらリアリティな内容と、有名メーカーや人物が出てきたときに、私たちは自分たちのリアルな世界と小説が繋がります。そして身近な話として受け止められ、そこから小説にどんどん吸い込まれていくことになります。
それぞれの立場で、考え方や行動が変わる
@photoAC
彼は5年間にも及ぶ取材について、「業種関係なく、アパレルを取り囲む様々な人たちに取材をした」そうで、小説を読むとその力がこの小説の骨組みを作っていることがわかります。
私が本書を読んで感じたことは「立場が違えば考え方や行動が変わる」ということです。
小説は特別この人が主人公です、というものはありません(軸に置いている人は数人いますが)。バランスよく様々な人に焦点をあて、様々な立場からアパレルを捉えたストーリーが書かれています。ですので、立場ごとの思いや行動に、読者も自然とついていけます。
私は、この小説を読んでいて不思議な感覚でした。こんなにも自然にそれぞれの立場を理解できる作品も、なかなかないような気がします。それはひとえに、多種多様な人たちに取材をしたことによる多面的なものの見方を、黒木さんがされていたことによるものだと感じます。
繁栄と衰退ってこういうことか。時代ってこういうことか。
@photoAC
単行本の上巻は主に繁栄していく様を、下巻は衰退を書いていると思われます。が、何についての繁栄、衰退なのかを書こうと思いましたが、立場違えばこれも変わるため、書けませんでした。
つまり、さまざまな人の栄枯盛衰が表現されているわけです。そこには「時代の流れ」というものが重要な要素であることが、ストーリーを通して感じ取れました。
小説の後半では、「物言う株主」として知られる村上ファンドの話が出てきます。アパレルに限ったことではありませんが、会社を存続させていくことの難しさが伝わってきます。
2024年5月に文庫化「アパレル興亡 上下」
こちらの小説、2020年2月に発刊されましたが、2024年5月に、とうとう文庫が発刊されました。上下に分かれての発売です。
多少専門用語が出てくることもありますが、わからないところは無理して意味まで調べなくても特に問題はありません。ストーリーがわかりやすいので、すいすいと読むことが出来ます。
アパレル興亡
集英社文庫 / 黒木亮著
上巻:770円/下巻:880円
ASUKATAでは、「なんで?」「どうして?」を大切に、独学から出発したいろいろな考え方をブログで紹介しています。答えはひとつじゃない、いろいろな方向から考えてみましょう!ではまた。
他 参考URL
中央公論.JP 『アパレル興亡』著者・黒木亮さんインタビュー