試験開始時刻より早く会場入り
前の試験では、落第した。実技試験も、筆記試験も、今まで同じ会場だった。
私は受験はがきをよく確認せず、当日試験会場へ向かった。前の試験では、ギリギリに到着して、緊張冷めやらぬ中試験を受けるはめになった。今年は会場が開く時間に行くことにしたのだ。試験開始時刻よりも40分ほど早かったと思う。
去年と同じように、パパに(子供たちものせて)車で送ってもらう。「ママ、頑張ってね!」子供たちは、いつもママを応援してくれる。
頑張ってくるねー、送ってくれてありがとう!私はそう言いながら車を降り、会場へと向かった。
試験場の玄関を入ってすぐの壁には、大きな受験番号と教室がかかれた紙が貼ってある。
(さぁ、どこの教室かな…)私は、紙を眺めた。
試験会場を間違える
(あれ…何かのミスかな?)
自分の受験番号が見当たらない。スタッフを見つけ「すみません…番号が見当たらないのですが…」
と言いかけたところで(…まさか)と思い始めた。
私はちゃんと目を通していなかった受験はがきの「会場」を確認した。同時にスタッフがこう言った「会場は合っていますか?」
あの数分、数十秒のドキドキはよく覚えている。
「…会場が違う」
青ざめる私と、びっくりするスタッフ。
こんなマンガみたいなことが現実に起こるなんて…
(…パパに連絡を!)とっさに私は、スマホを取り出そうとカバンを漁った。
ところが、今度はスマホが見当たらない。
(あれ、スマホ……スマホは?!?!)
いろいろとパニックな私。どうやらスマホを車に置き忘れてしまったようだった。
…こんな終わり方をするんだ、神様は私がこの道に進むのはやめた方がいいと言っているんだろう。自分の確認不足なのに、こんなときは神様に八つ当たりを始めてしまう。どうすることもできない焦りと不安で、一瞬時が止まった。
パパたちはもう車で戻ったよね、そう思いながら私は外に出た。
降りた場所に車はなかった。
(…もうダメだ)
それは、失意のどん底に落ちた瞬間だった。
パパが戻ってきた
そのとき、反対方向からパパが歩いてきた。
「…パパ!!!!」
「…なんで戻ってきてくれたの?!」
パニック状態な私。
「…スマホ!車に忘れてたよ!」
どうやらスマホを届けに戻ってきてくれたらしい。
これが奇跡のふたつめ。
「パパ、会場が違った!どうしよう!!」
「…え?!……確認してないなんて信じられん…本当の会場は??」意外と冷静なパパ。
「…知立!」
「…え?!?!」方向感覚があまりない私でも、ここから遠いことはわかっていた。無理だね…もう終わったね、と心の中でつぶやいた。
だけどパパは、いやー…厳しいでしょ、と言いながら車に向かい出した。
(…え!いける??)やや困惑したが、間に合うのなら行ってみよう!まだあきらめるには早いかもしれない!
この一連の光景を、会場のスタッフさんは見ていた。
「遅刻は何分まで大丈夫ですか?!」気を取り直した私はすかさず聞いた。
「試験開始後20分まで大丈夫です。…行かれますか?!」びっくりするスタッフ。
「これから向かうので、会場に連絡をしていただいてもいいですか?」そう言い放ち、私は車へと走った。
タイムリミットは30分。
かなり早く会場入りしていたことが、奇跡のひとつめ。ただ、間に合うかわからない。
タイムリミットまでに会場に着かなければ、私は試験を受けないまま不合格だ。
間に合うか
パパが車にナビを入れた。車を止めていた道を左に曲がったすぐのところが、なんと高速道路の入り口だった。それに、知立の会場は高速道路を降りてすぐの場所だった。これが奇跡の3つめ。
…到着予定時刻は27分後!!
「行くだけ行ってみるか」パパがアクセルを踏んだ。
「ママ、会場間違えてたのー?!」ママらしいねぇ、と子供たちはのんきな声で言った。
隣では、安全にだけどなるべく早く運転しているパパを横目に、私は天に運を任せることにした。
ここまできたらもう、なるようになるさ。
奇跡の3分前
(おぉぉ…これは本当に間に合うかもしれない)
私たちは、タイムリミット3分前に知立の会場に到着した。奇跡の4つめ。
会場に走って入ると、知立のスタッフの方が来た来た!と言わんばかりに向かってきて「こっち!こっち!」と教室を案内してくれた。
試験は60分だが、遅刻をしたので40分。とにかく急いで解答を始めた。その後の製図問題もなんとか終えて、私は抜け殻のように帰路についた。
無事合格!
試験は、正直自信があまりなかった。出来たといえばできたような気もするし、出来てないと言われれば出来てない気もする。なんだそれ!と言いたくなる。
それから数か月後、合否通知が届いた。
落ちたときの通知は受け取ったことがあるからわかる。厚さがなくて、ぺらっぺらの封筒だ。だから開封しなくても合否がわかるのだ。
今年、郵便屋さんが持ってきた封筒は、厚みがあった。そう、合格だ!!
「ありがとうございます!」笑みをこぼしながら郵便屋さんから封筒を受け取る。
開封し、合格を確認。パパに連絡。
合格して報われたのは、当日頑張ってくれたパパだと思う。ありがとう、パパ!
会場のスタッフさんも、連絡をとっていただいたり案内してくれたりで、本当にありがとう!みんなのおかげと奇跡がつながったおかげだ!
独学というのは本当に孤独で、わからないことだらけだ。霧の中を進んでいるような感覚というのがしっくりくる。霧の中で少しでも自分の立ち位置を確認したい、そんな思いで受けたパターンメーキング検定だった。試験の合否は大事かもしれない。だがここにくるまでの過程で、少し霧が晴れてきたような気がした。
私のような筆記も実技もドタバタな受験者はそう多くはないだろう。こんな人もいるのだから、たいていの人はスマートに合格できるはずだ。数値だけで見れば、合格率は60%前後で難しい試験ではない。これから試験を受ける方たちの面白話として、勇気づけてもらえたら嬉しい。
実技試験の体験記はこちら・体験記①「独学でパターンメーキング検定を受験する」・体験記②「鬼の3週間」・体験記③「え!フルドレ?!試験会場でのどよめき」
2024/02/14 内野